いのちを いただく
この本の原案を提供した坂本さんは、牛を解体して食肉にする仕事をしてきました。生き物の命を絶つ仕事です。決して楽しいことではありません。できれば違う仕事をしたいと思うこともありました。けれども、小さな女の子と、その子の飼っていた牛との別れに立ち会って、考え方が変わったのです。
その日、坂本さんが働いている作業所に、明日には解体すると決まった牛を積んだトラックが止まりました。 同時に助手席から小さな女の子が下りてきて、荷台に駆け上がって行ったのです。危ないと思った坂本さんがトラックに近づくと、女の子の声が聞こえてきました。
「ごめんねえ、みいちゃん。みいちゃんがお肉にならんとみんなが暮らせんけん、お正月がこんて、じいちゃんのいわすけん、ごめんねえ、ごめんねえ」
そう言いながら、いっしょうけんめいに牛のおなかをさすっていたのです。
それまでは、解体する動物をかわいそうと思ったことがなかった坂本さんでしたが、この時、 「少しでも楽な気持ちで天国に行けるようにしてやるのが自分の仕事なのだ」と気づいたそうです。そして、生き物たちの、死にたくない気持ち、死なせたくない気持ち、を分かってもらおうと、小学校などで講演をされるようになりました。
そこにたまたま居合わせたのが、助産師の内田さんです。命の誕生に立ち会う仕事をしている内田さんは、坂本さんのお話の内容が、日ごろ自分も感じている、「命をもらい、命を育む、どの命も大切なのだ」という気持ちを見事に伝えていると直感されたそうです。そこで、その日のうちにこの本の元になる原稿を完成させたそうです。
私は、女の子が牛をいたわる場面、坂本さんに「じっとしとけよ。動いたら急所をはずすけん、そしたら、よけい苦しかけん、じっとしとけよ」と言われて、牛が涙を流す場面、そして、女の子が「みいちゃん、ありがとう。おいしかぁ、おいしかぁ」と泣きながら牛の肉を食べる場面、それぞれで泣かされました。そして、命の大切さを教えるために牛さんを登場させているけど、人間はどうなの、と思わずにいられませんでした。
深読みと笑われるかもしれませんが、私は、高校時代によく歌った「ドナドナ」を思い出したのです。「かわいい子牛、売られてゆくよ」という歌詞は、ベトナム戦争に駆り出された若者たちの胸中を思いやって作られたのです。今、ひたひたと身に迫る思いがします。こればかりは、「ごめんねえ」で済ませるわけにはいかないのです。
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