本 帰る 

カミさんが古書店を始めたので、今までダンボール箱に押し込められて、背表紙も見ることがでなくなっていた私の本たちが、久々に日の目を見ることができるようになってきています。
私の家は、田舎の農家です。農家の家は、座敷とか、仏間とか、日常生活で殆ど活用することのない空間が、家の中心にあって、毎日生活している者は、その周辺や隅っこにある部屋で過ごしています。玄関も不要に広く、廊下なども(分厚い本棚を置いても十分人が通れる位)無駄に幅広く造られています。そういうところをいつも掃除して、誰ともはっきりしない来客のために準備しているのです。
しかし、田舎の農家にそんな気を張る客などある訳がなく、年に1、2回親戚の誰かが来るか、お坊さんが念仏を上げに来る位です。
そんなふうに使われない空間が在る訳ですから、本ブログ「総曲輪通りのS書店」で書いたように、高校生以来の調子で本を買っている私は、自分の部屋に置ききれなくなった本たちを、この使う当てのない部屋や廊下の一辺に置き始め、その挙句、本屋を始めてからは、裏の納屋や玄関にも、店の在庫の本を置き始めました。
ところが、私の母は、本や本屋の仕事が理解できず、ただただ近所の目や世間体を気にして、この本たちを憎み始め、もう如何にもならず、私の本たちは、ダンボール箱に詰め込んで納屋の2階に、店の本は、店の棚の下などに押し込むことになりました。それ以来長く、私は自分の本たちの背表紙を眺めて日々を過ごす(とても楽しい)時間を失くしてしまいました。
その本たちを、かみさんの古書店に置いてもらうことになりました。4、5箱ずつ、もう10回以上家から運んできたので、店のバックヤードがいっぱいになって、しばらくは運び込むのは中止です。かみさんの登録の作業もなかなか進みません。少しずつでもダンボール箱が開けられて、懐かしい私の本たち顔を見ると嬉しくて、ワクワクしてきます。かみさんも面白い本がいっぱいあると喜んでくれるので、嬉しいです。ただ、かみさんのことですから、登録しようと仕事を始めても、面白そうだと読み始めてしまい、登録の作業が捗りません。今も、堀田善衛の『若き日の詩人たちの肖像』の登録作業が始まって、一生懸命「この人の文章面白いわぁ」と読んでおられます。(早く登録作業をして、私の本たちを全部ダンボール箱から出してほしいのですが!!) 折も折、丁度かみさんの中学校の恩師がら手紙が送られて来て、堀田善衛の『方丈記私記』について書かれた箇所があり、かみさんは、「堀田善衛の『方丈記私記』を持っている?」と聞きます。「多分あると思うよ」答え、これで登録作業のピッチも上がるかなと期待。しかし、程なく当該の本は、ダンボール箱から顔を出し、多分かみさんはその本を読み始めるでしょうから、依然作業は停滞したままということになりそうです。
もちろん私も、ダンボール箱の中に詰め込まれていた本たちを、1冊1冊取り出していくと、また読みたくなってきます。今読むと、若い頃には感じられなかった作家の思いを、今になって気付かされたように思うことがあります。全部読み返すことは無理だけど、ダンボール箱を開けた上の方から順番に何も考えずに摘み出して、読んでいこうかなと思っています。

ponpon について

本と映画とパソコンと写真とお酒が大好き。
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