『わたしの描きたいこと』

「みんな元気になる絵本」(254回)でカミさんが紹介した絵本『花ばぁば』(クォン・ユンドク絵文 桑畑優香訳 ころから)の制作過程を追ったドキュメントDVD『わたしの描きたいこと』を観ました。観ているうちに段々緊張してきて、いつの間にか正座して観ていました。背筋の伸びる思いでした。
韓国の絵本作家クォン・ユンドクさんが、日本軍「慰安婦」をテーマに創作した絵本『花ばぁば』。日本の絵本作家さんたちから中国、韓国の作家さんに呼びかけてスタートした「日中韓平和絵本プロジェクト」の参加作品として制作されました。参加されたのは、2007年です。しかし、3か国同時刊行が約束されていたにもかかわらず、右翼からの攻撃を恐れた出版社や関係者の判断で、日本での刊行が無期限延期されることになりました。戦争における国家的性暴力というストレートなテーマの前に立ちはだかる、「日本」という複雑な問題に、苦悩する作家の創作過程を追ったドキュメンタリーです。
プロジェクトでは当初、絵本作家クォン・ユンドクさんの日本軍「慰安婦」をテーマにした作品を創りたいという思いを、日本の作家さんたちも歓迎します。しかし、制作を進めていくうちに日本側から、日本の子どもたちは戦争の残虐性や侵略性を知らないで育っているという「歴史認識の問題」、慰安婦というテーマが理解できないだろうという「性的な問題」、「右翼からの攻撃」を理由に、度重なる注文がつき、クォン・ユンドクさんはその都度苦悩し、結果的に12冊ものダミーを創ります。
ある時は、日本側の出版社D社の編集長は、作品本体を「ひどい体験をした女性が新しく生き方を見つけていくことに共感する」というの筋立てに変更することを要求します。これに対して韓国側の出版社の編集長からは、この絵本のテーマは、「ある女性が性的虐待をうけて、それを克服して生きていく人生の物語ではない」「作家が描いていることに口出しするようなことは正しくない」「出せないなら、出版しなければいい」と強い言葉が出てきます。
DVDを観ていると、出版社のご都合主義や右翼への弱腰を感じます。しかし、出版に漕ぎ着けたい、著者との信頼関係を守りたいと苦悶する出版社D社の姿も見て取れます。
DVDは、幾度かの出版延期の挙句、2012年日本側の出版社D社から再度の延期(出版断念?)のメールが送られてきたところで終わります。
出版延期された絵本をどうしてウチのカミさんが「みんな元気になる絵本」で紹介できたかというと、2018年に東京・赤羽にある出版社「ころから」さんが日本での出版、日本語版を刊行したからです。2018年4月29日初版発行。クォン・ユンドクさんが創作を開始してから12年の歳月を要しました。
「ころから」の木瀬さんは、「歴史認識の問題」、「性的な問題」、「右翼からの攻撃」など、出版社D社が克服できなかった重い問題に、どの様に対処されたのでしょう。「ころから」さんの入居ビルが右翼の街宣カーに取り囲まれたとか、インターネット上で炎上してホームページにアクセスできなくなっているとか、私が田舎にいるから知らないだけなのかもしれませんが、聞きません。伝え聞くのは、クラウド・ファンディングの資金支援のお金が集まったこと、木瀬さんが絵本製作の経験がなく、絵本は一般書に比べページ数が少ないと原価計算をあまく見積もって(墨版1回刷のところ絵本は少なくとも4色刷るので4倍以上経費が掛かる)大幅な資金不足を招いてしまったことなどです。
実はウチのカミさんの原稿も、毎日新聞社から形容詞1品詞の変更要請がありました。原稿の変更要請は、後にも先にもこの時だけです。地元紙に書評を書いたことのある店のお客様たちの話では、勝手にバンバン書き換えられるとぼやいておられますが、さすがにその様なことはありません。1品詞の変更で載せてもらえたので、さすがに毎日新聞だと感謝しています。が、この回だけ、毎日新聞のWEBページに掲載されませんでした。毎日新聞は、『花ばぁば』の刊行を知らせる記事は載せています。ウチのホームページには、毎回掲載された毎日新聞WEBページへのリンクを貼っているのですが、今回はそれがないので、「ころから」さんのWEBページ『花ばぁば』の刊行が毎日新聞で紹介されました『花ばぁば』の刊行が毎日新聞で紹介されましたにリンクを貼りました。

「日中韓平和絵本プロジェクト」は、現在「日・中・韓平和絵本(全10巻)」としてD社から刊行されています。絵本『花ばぁば』が予定通り刊行されていたら、全11巻となっていたのでしょう。「日・中・韓平和絵本(全10巻)」の中には、DVDで登場される、浜田桂子さんや田島征三さん、田畑精一さんの作品が入っています。イ・オクベ さんの作品もも入っています。
クォン・ユンドクさんが、日中韓の作家や関係者が集まって出版すると約束したのに、日本の出版社を「信頼」できなくなると嘆く場面がありました。
数か月前に、カミさんのFB友だちの長谷川集平さんが、新作絵本『ぼくはラララ』の出版計画打切りのメールを受け取り、悔しく思っておられる投稿を読みました。この件もD社です。出版直前段階まで進行したダミーが送られていた、それに対しての返答です。「ファンは買うだろうけれどそれ以上は売れないだろう」という理由だそうです。これを読んで驚いたFB友達の中の一人が、出版社を変えてみたらどうかと提案し、「ひだまり舎」(カミさんの友だち、中村さんが主宰する元気な出版社。今年の4月に田島征三さんの絵本『ちきゅうがわれた!』を出版されています)を紹介しています。これに応えて長谷川さんは、「出版は信頼関係の上に成り立っていると思います。ぼくはまだHさん(編集者)を信頼しているので」と答えています。出版は「信頼関係」という言葉で思い出しました。
1982年私が27歳で絵本屋をやり始めたばかりの頃のことです。石川県の山中温泉で、赤羽末吉さんや渡辺茂男さん、松野 正子さん他(忘れてしまったのですが)総勢10名ほどの錚々たる面々が集まって絵本のセミナーが開かれました。私はその裏方のお手伝いに行っていたのですが、その裏方の控室でD社の営業の方とお会いしました。早速名刺を取り出して、ご挨拶をしたのですが、何故かせせら笑いをされたようで何か変なのです。現文科大臣がおっしゃるように、何事も「身の丈に合った」身の振りが必要だったのでしょう。裏方の仕事が一段落して控室に戻ると誰も居ません。床に私の名刺が捨てられていました。私は黙ってそれを拾いました。

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ペーター・ハントケさん

今年のノーベル文学賞にペーター・ハントケさんが決まりました。『ゴールキーパーの不安』は有名ですが、邦訳『不安―ペナルティキックを受けるゴールキーパーの… 』も読んだことがありません。読んだことはないのですが、観たことがあります。ハントケさん脚本の映画『ベルリン・天使の詩』(ヴィム・ヴェンダース監督)です。DVD持ってます。
でもこれ、難解ですよ。

P.S. 『不安―ペナルティキックを受けるゴールキーパーの… 』ですが、現在品切れ中です。というか、ずっと絶版になっているので、受賞をきっかけに、きっとどこかの版元が新訳で出版してくると思いますよ。古本市場は急騰しています。

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映画『新聞記者』観てきました。

 

今日、富山市中央通りの「ほとり座」さんで、映画『新聞記者』を観てきました。この作品は、東京新聞記者・望月衣塑子さんの著書を原案にしたサスペンスドラマです。
現実の姑息な悪だくみに比べ、けた外れに大きな陰謀とそれに立ち向かう新聞記者と内調調査官の葛藤、緊張の連続が、かえって問題の本質を分かり易くしてくれます。毎日新聞に連載されていた池澤 夏樹さんの『アトミック・ボックス』を思い出しました。
カミさんに、「ちょと創り過ぎじゃないの」と言うと、「フィクションなんだから、これでいいの!」と断言。「そうですか」と私。
全国のあちこちで上演された知らせを聞いて、富山じゃ観られないのかなぁ、と残念に思っていたので、うれしかったです。この前は、『主戦場』、その前は『マイ・ブックショップ』を「ほとり座」さんで観てきました。11月には、私の自宅がある射水市小杉町の竹内源造記念館でも、ほとり座さんの協力で、映画『わたしはロランス』の上映が予定されています。「ほとり座」さんありがとう。

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糸魚川で化石展を見てきました

糸魚川へ「糸魚川の化石展」を見に行ってきました。この展示会は、「糸魚川の町屋文化を守り伝える会」(児童文学作家の小川英子さんが代表をしている)が、糸魚川市本町の旧倉又茶舗(小川さんの生家)を会場にして開催しています。で、本当のことを言えば、私は化石のことは全く分からない門外漢で、この会場の中に木村太亮さんの壁画があるというのと、木村さんの恐竜カードが販売されているというのを目当てに、それと会場のお向かいが「加賀の井」の蔵元さんであることなどなどに突き動かされて、「糸魚川の化石展」最終日の前日に、急遽「明日、出掛ける」と決めました。

今日は暑いぞと確信させる7月末日の早朝、富山を出発。糸魚川についた午前9時半ごろで、もう大変な暑さでしたが、本町の通りに入ると冬の豪雪のための雁木が、この強い日差しを遮ってくれて、歴史を感じる町屋づくりと相まって涼しくさえ感じます。その雁木通りを歩いていくと、「糸魚川の化石展」の立て看板が見えてきました。入り口が開放されていて、明るく入りやすい雰囲気です。まだ、開場早々という感じで、パンフレットを揃えたり、蚊取り線香に火をつけたり、お茶の準備をしたりと忙しく立ち働いておられる最中の、旧倉又茶舗の家主で、児童文学作家の小川さんが、笑顔で迎えてくださいました。
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早速、化石の説明になって、フォッサマグナの糸魚川地域に限らず、富山県も化石の宝庫で、「おわら風の盆」の八尾町辺りは、化石の上に街があるといっていいくらいだそうで、へぇ~初めて知りましたって感じ。展示されている化石は手に取って見ることができて、まあるい泥団子のようなものがいくつも展示されていて、そういう形のものは中に化石が入っているそうで、それぞれ真っ二つに切断されていて、開いて中の化石を見ることができました。その中の一つに、二枚貝の「フナクイムシ」の化石があって、「えっ!今年の春に古町の居酒屋「五郎」で、確か「フナクイムシの刺身」って説明受けたと思うんですが、食べましたよ。美味しかったですよ」って思い出したのですが、小川さん「えっ!ほんとに食べれるの」と化石のフナクイムシを見ながら不思議顔。化石展のスタッフの方にお聞きしようと話していたところに、糸魚川ジオパーク認定ガイドのFさんが現れて、「たぶん食べたのは、フナクイムシでしょう」との回答。私の情報が正しそうなのには、ほっとしたのですが、化石を見ながら、コレたべたのかなと思うと複雑な気分になりました。
この後Fさんは、けっこう長時間にわたって、化石のこと、化石の歴史的なこと、地理的なこと、日本列島が形作られてきた過程、フォッサマグナのことなどなど熱心に分かりやすく説明してくださいました。フォッサマグナという言葉は知っていましたが、今まで全く違う理解をしていて、フォッサマグナのお話にはとても興奮しましたし、化石の魅力も少しは理解できたかなと感謝しています。「先達はあらまほしき事なり」であります。

Fさんのお話に夢中になって、木村太亮さんの壁画を見に来た第一の目的を忘れるところでした。小川さんにお願いすると、町屋の奥に案内してくださいました。お店だったエリアから通り土間に入ると、立派な吹き抜けの天井があり、流し場には井戸が生きていて水道水と冷たさ比べができます。奥に広い町屋づくりをず~っと入っていくと、中ごろに内蔵があって、住居エリアがあって、その奥に広い土間があって、本日のイベントのためのブルーシートが敷かれていたのですが、その壁面に目的の壁画がかけてありました。壁画は切り絵で創られていて、本日のイベントと同じように、ワークショップを開催して、木村さんと子どもたちが、木村さんの用意したオリジナルの彩色紙を使って創り上げたものなのだそうです。一つ一つの魚やフクロウの形や表情が面白く、子どもたちが木村さんとのびのび創り上げたのだろなぁという様子が窺えました。
とても楽しい化石展でした。
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「糸魚川の化石展」会場、旧倉又茶舗を出て時計を見ると、正午をとっくに過ぎていたので、斜め向かいにある、木村太亮さんも入ったという、「そば処泉屋」さんでお昼にすることにしました。注文は、ざるそばです。妙高山麓のそば畑で収穫した霧下のそば粉で打ったそばだそうで、とてもおいしいそばでした。春に深大寺の「一休庵」さんで十割山菜そばと天ざるそば(十四代呑みました)をいただいて以来の、本格的そばって感じです。ただ、薬味が(たぶん)ネギ坊主(の乾燥野菜)がまるごと二個付いていて、これは初めての経験です。私は百姓なので、ネギ坊主というのは、ネギ栽培のピーク時を意味するもので、出てくるとこれば採ってしまいます。てんぷらにして食べると美味しいらしいのですが、大半は「石油を作る」と冗談を言って、草と一緒にたい肥作りへ。糸魚川では、そばの薬味にネギ坊主を使うのですね、処変われば、ですね。まるごとはちょっと苦いので、刻んでもらった方がイイかなぁ。
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「そば処泉屋」さんを出たら、次はお隣の「加賀の井」さんです。今回で、三回目になります。今回も買い求めたのは、「加賀の井純米吟醸4合瓶」(1,404円)で、3回とも同じものです。三女が新潟大学に入学して引越しの帰りに、長女が大のファンの高橋留美子さんのアニメキャラクターの付いた「ふじの井」さんの日本酒をお土産に持ち帰ったところ、歴史好きの長女が、「新潟なのに「加賀の井」というお酒があってね、加賀の殿様が~云々」と講釈を始め、それを聞かされた後、次に新潟へ行ったとき「加賀の井」を買い求め、家に帰り呑んでみるととても美味しく、私が日本酒ファンになるきっかけになったお酒の一つです。ただ、生憎新潟へ出かける時、糸魚川通過は、早朝か夜間になってしまい、「加賀の井」さんになかなか立ち寄ることができません。とても残念です。
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それと、早朝富山を出て、真っ直ぐ糸魚川本町へ向かったかのように書いていますが、実はその先に、糸魚川押上の「雪鶴」蔵元へ。蔵元のホームページの案内では朝8時から営業とあったので、早く着いたら行ってみようと決めていました。訪ねると、(たぶん)蔵元夫妻とお孫さん、店内お掃除中、でもあっさり入れてもらって、「どちらから来られました」「富山です」「富山なら美味しいお酒、いっぱいあるじゃないですか」から始まって、直ぐに打ち解けて、何か近所の豆腐屋さんに朝餉の味噌汁の具を買いに行ったみたいに、「雪鶴純米吟醸無濾過生原酒4合瓶」1,458円を買って来ました。こちらの酒蔵を訪ねるのは、今回初めてです。雑誌や日本酒関係の本にも取り上げられている、けっこう有名な蔵元さんなのですが、蔵元だからといって私のような日本酒が好きなだけの素人庶民を見下すでもなく、また客だからといって変にへりくだることもなく、普通に接して下さる、新潟へ来るといつも感じるこの水平志向が、私はとても好きです。
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本当に、富山や金沢で、専門店で日本酒を買うの、精神力要ります。
酒に限らず。
専門店経営するのも。

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土木会議に行ってきました

7月1日から、うちの店では、「大地のめぐみブックフェア」を始めています。うちのカミさんが昨年から温めていた企画で、各出版社さんにもご協力いただき、Facebookでも「いいね」していただいたり、過分のコメントをいただいたりと、とてもうれしく思っています。
という訳で、私も「大地のめぐみフェア」に協賛の意味で、7月3、4日と泊り掛けで、高岡市雨晴温泉「磯はなび」で開かれた「土木会議」に行ってきました。私は昨年から土木委員なのです。
「雨晴海岸」は、「白砂青松百選」・「日本の渚百選」の一つで、昔源義経が雨を晴らしたという「義経岩」を前景に富山湾越しに見る立山連峰の雄大な眺めは絶景で、「磯はなび」の露天風呂から見ることができます。
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「土木研修会」は、地下1階の会議室で開かれ、「稲作管理」のいろいろな事柄について指導があったのですが、大半が「カメムシ」対策に当てられました。今年の「カメムシすくい取り調査」では、平年の3倍、昨年の2倍発生しており、草刈り、耕起、大麦後の作付など徹底した対策が強調されました。
ちゃんと研修受けてきましたよ、という証拠に写真をパチリ。酒飲みに行っただけではないのです。
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やっぱり研修会のあとは、ゆっくり温泉に入って、あとは親睦会です。親睦会に出たお酒が「磯はなび」オリジナル。「三笑楽」さんの造りで、とてもおいしいお酒でした。オリジナルなので、「特定名称」が記載されてないのが残念でした。
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「磯はなび」は、JA共済の施設ですが、百姓でなくても利用できますので、ぜひ。とてもいい温泉です。(#^.^#)

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こぐま社さん タイムリーに来店

今日(6月20日)、こぐま社の前社長吉井さん来社。ちょうど電車通り側入り口に、「こぐま社50周年フェア」を展開中だったので、グッドタイミング。日頃お世話になっているので、恰好が付きました。(#^.^#)
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私は外に出掛けていたので、カミさんがお相手をいたしました。先週ニイガタブックライトへ出掛けたことや、昨日京都に行って来たことなど話すと、「新潟は元気ですよね」と、張り切っている英進堂書店さんのことや、昨年「柳原良平」さんが亡くなられたとき、北書店さんから追悼のフェアをやりたいという申し出があって、うれしかったことなど話されたようです。北書店さんのツイッターでも、当時そのことを頻繁に載せて、大型絵巻絵本『船』の復刊を知って即行で予約したことや、佐渡で行われる本のイベント「ハロー!ブック」に佐藤さん(北書店店主)がゲストとして招かれていて、復刊がそれに間に合わないと思っていたのに、間に合って、すごく嬉しいと書いておられたりした。「柳原良平」さんは佐渡汽船の名誉船長さんだったそうで、佐藤さんもことのほか力が入っていたのでしょう。こぐま社さんからは、『船』のほかにも『かおかおどんなかお』や『やさいだいすき』など出版されています。
京都については、「三月書房」さんのすごい選書については、よく分かっておいでで、「やっぱり、京都大学をはじめ、たくさんの大学がありますからねぇ」との解釈。「誠光社」さんや「ホホホ座」さんについては、よくわかっておられないみたいで、今盛んな街の本屋さんの新しい動きは、児童書出版社さんにはちょとちがうのかなぁ、という感じです。
北陸日販会のところで児童書出版社さんの出席が少なかったことを書きましたが、16日には理論社さんも来店されており、巨大書店の集まりはともかく、児童書出版社さん、時期的なこともありますが、全然元気です。

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京都の誠光社、三月書房、恵文社一乗寺店、ホホホ座へ行ってきました

今、私たちのような街の本屋で、最も賑わしいのが京都の街の書店さんたちです。一度出向いて見てきたいと、ずーっと思っていたのですが、ちょっと時間が取れそうなので、暑くなる前に、祇園祭が始まる前にと、天気予報を睨みながら、6月19日に出かけることにしました。週間天予報は、曇り。前日の予報も、曇り時々晴れ。のはずが、大津に入ったころから降り出して、京都は終日土砂降り。これって、誰のせいなの?
朝早く着いたので、先ずは雨の中を「哲学の道」散歩。「大豊神社」の祭礼が近いようで、あちこちの家の前に「お神酒」の振舞札。「大豊神社」には珍しい「狛鼠」さんがいましたよ。
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いよいよ出発。先ずは、日本一の有名書店恵文社一乗寺店の前店長堀部さんが、昨年冬に独立開業した「誠光社」さん。英米文学、文化が得意という感じで、やっぱし超かっこいいお店です。棚も一梁ごとに特徴的にまとめられていて、隅々まで考えられた棚づくりです。午前10時の開店早々、雨の中にもかかわらず、たくさんのお客様で賑わっておられました。今はどうしても、現在の恵文社一乗寺店とよく似た雰囲気を感じてしまうわけですが、これからどう展開発展され、どう突き放していかれるか、私も勉強させてもらえたらと思っています。
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次は、京都の有名書店「三月書房」さん。青学の福岡伸一さんも、「究極の理想の本屋」と激賞の本屋さんです。本当にすごい選書で、どの棚の前に立っても、その重厚さに圧倒されます。こちらは、店名も有名ですが、店主さんも歴代有名人です。その店主さんがお一人で切り盛りなさっておられるはず。時代に実効性のある新刊本からずっーと読み継がれていくべき既刊本を、決して文科に限らず様々な分野で、しかも決して広いとは言えないスペースに収める、このすごい選書をお一人でなさっておられる訳で、本当にこんなことができるんだと、恐れ入ってしまいました。私は本屋なので、今日配本になる本が分かります。出版予告で私の店にも置きたいと思っても、ここまでガッチリとしたテーマの本を置けるだろうか、そういう読者をうちは持っているだろうかと悩んでしまうような本が、しっかりセレクトされて、今日入ったばかりのはずなのに、ずっと定番になって棚差しされてた本の中に、まるで今までもそこに置かれていたかのように、当たり前の顔をして収まっているのを見て、私の店でもこんな風に本を並べれたらなぁ、と羨ましく思いました。私も、こちらのような街の本屋になりたい!
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次は、超有名店「恵文社一乗寺店」さん。日本中の本屋さんや出版社さんたちが「恵文社一乗寺店詣で」と押しかけて来るお店で、私も念願が叶い、善光寺詣りかお伊勢詣りができたような気分になって、これで本屋仲間の話題にも、付いて行けるという次第です。
「えいでん」一乗寺駅からお店に向かって歩いていると、いつの間にか周りに女の子たち連れがぞろぞろ歩いていて、みんな「恵文社一乗寺店」へいくのかなぁ、って感じ。店に入ると、山のようなお客様で、若いアベックとか女性客とかでいっぱいです。店内は、とても広く、コーナーを区切ったように、本棚、平台、雑貨棚、販売テーブルが、いろいろな形で展開されています。コ―テージでも、催し物が開催されていて、たくさんの人でとても賑やかで、人の流れが速く、若い人たちの活気で溢れたお店でした。堀部さんが店長だった頃のお店も見ておきたかったなぁ、と思いました。
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最後は、「ガケ書房」から新しく移転、改名して昨年春に開店された「ホホホ座」さん。先日のニイガタブックライトにもおいでだった山下さんちのお店です。私は、「ガケ書房」の頃を知らないので、今のお店は「本屋さん+雑貨屋さん」です。私の店も、20年程前までは、「絵本+木のおもちゃ+ファンシーグッズ」で、子ども雑貨の店だったので、何か店内に入っただけで、楽しい気分になりました。山下さんはご不在だったのですが、明るい雰囲気の女性店員さんがお二人おいでで、早速大量購入のお客様が現れて、おっ!すごい。うちの店なら、しめしめとばかり、店は閉めちゃって、帰っちゃていいかもと思ったりして。ファンのお客様がおられるんですね。
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実は、あと何軒かの本屋さんを見て回ることにしていたのに、「三月書房」さんで無茶苦茶時間を費やしてしまったので、今回はここまでになりました。それと、実は本屋さん巡りに合わせて、「ちりめん山椒」屋さん巡りをして、酒の飲み比べならぬ、「ちりめん山椒の食べ比べ」をひそかに計画していたのですが、四条へ行くのを諦めたことと、「誠光社」さんから「三月書房」さんへ行く途中にあるはずだった「ちりめん山椒」屋さんが見当たらず、この計画は全滅してしまいました。「おたべ」も買いたかったのですが、これもダメ。
しかし、京都へ行ったので、やっぱしお酒買いました。「三月書房」さんのすぐ近くにある、「富屋」さんで、「澤屋まつもと 守破離 純米酒4合瓶」(1,182円)、「純米吟醸 城陽300ml」(810円)
です。

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北陸日販会総会、北陸エリア書店販売勉強会へ行ってきました

金沢都ホテルで開かれた、日本出版販売(株)の勉強会(6月14日)に行ってきました。出席の書店さんは、紀伊國屋書店北陸地区販売部さん、紀伊國屋書店金沢大和店さんをはじめとした巨大書店さんと、郊外に巨大店舗を展開しておられる地元老舗書店さんの方々で、「絶滅危惧種・個人新刊書店屋」(前回6/13ブログの「ニイガタブックライト 一箱古本市in現代市に行ってきました」参照)は、私だけ。第一部の会場である7階鳳凰西の間に、所狭しと集まっているのは、出版社さんばかりで、書店は数えるばかり。お隣の席のS市のI書店さんも、「いやぁ、いっぱい集まってるなぁ。今年は多いみたいだよ。出版社さん、ヒマなんかなぁ」とニコニコ。写真をパチリ撮って「証拠写真残しておかんと。ちゃんと勉強してきたのか。どっかで遊んできたんじゃないのかと言われないためにねぇ」とニコニコ。そこで、私もパチリ。
会場は、向かい合わせにテーブルが2列に組まれ、1列は大手の出版社さん、もう1列は書店で、それを取り囲むように椅子席がずらーっとあって、全て出版社さん。もうこんなに少ししかいなくなっている書店に、こんなにたくさんの出版社さんがやって来て、どうするのだろうと、お前は関係ないのだよと言われそうな心配をしてしまいました。
私が北陸日販会へ入れてもらった30年ほど前は、総会といえば粟津温泉の「法師」や片山津温泉の「矢田屋」で開かれて、北陸の街々の地元書店さんがたくさん集まって来て、とても賑やかで、記念講演会にせっかく来ていただいた偉い先生方のありがたいお話を、硬い固いとぶつくさ言って、酒飲むことしか考えていない本屋のおやじどもに、酔った勢いで大量発注させようと必死の出版社さんたちと、とてもたのしい集まりでした。
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そこで勉強会の話ですが、第一部のテーマは、「文庫ジャンル販売勉強会」。新潮社さんからは、文庫販売全体の7割が、文芸春秋さんからは6割半が棚から出ているとのデータ発表があり、欠品の補充が販売増につながることが分かったが、出版社別でなく、作家別に棚づくりしている書店では、どう欠品補充するのかという問題、また作家別の単行本の棚の中に文庫本を混ぜることによって回転率が上がった例が紹介されると、全体としての販売額が下がるのではという問題提起もされました。(もちろん、この他たくさんのディスカッションが行われたのですが)
これって、デカ過ぎる本屋さんの課題なんですよね。広大な文庫売り場に山のようにあるタイトルの文庫を、補充発注するときは、やっぱり出版社ごとなのです。それを作家別に並べていたら、とても出版社別の発注などできるものではありません。そこで欠品はそのままということになります。紀伊國屋書店富山店さんも、出版社別棚づくりをしておられます。
ところが、2日前にニイガタブックライトから帰ってきたばかりの私には、あまりに住む世界の違いに苦笑いするしかありません。迷惑かもしれませんが、あえて私たち「絶滅危惧種・個人新刊書店屋」(ニイガタブックライトのメインスタッフKさん言、6/13ブログ・参照)はと括らせてもらうと、作家別テーマ別の棚づくりが当たり前。出版社別棚づくりができるようなスペースもなければ、預からせてもらえるはずもなく、仕入れる資金もありません。1冊1冊選んで発注するしかない「絶滅危惧種・個人新刊書店屋」には、単行本と文庫本の混在棚も当たり前なのです。超有名書店、千駄木の街の本屋さん「往来堂書店」の、 安藤哲也さんが創った「文脈棚」も、ある意味混在棚ですよね。街の本屋が毎日やっていることが、巨大書店では、ディスカッションのマジ!テーマになっちゃうんですね。巨大書店の「生まれいづる悩み」ということでしょうか。
つづいて、「店売部門」と「外商部門」に別れて、各出版社からの制限時間一分間の最新情報の説明会です。私は、「店売部門」に参加したので、飛翔の間に移動です。今回気になったのが、児童書の出版社が殆ど来ていないことです。参加はポプラ社さんとくもん出版さんだけだと思います。30年前は、たくさんの児童書出版社が参加していて、岩崎書店の社長さんがその時の最長老で、出版社を代表して挨拶されたのですが、その誠実な出版姿勢に感動したことを覚えています。巨大な売り場面積を競う大型書店や、郊外に巨大店舗を多店化競争する書店の中で、遊び場化する児童書売り場と粗雑に取り扱われる大量在庫が、もしかして児童書出版社には負担になって来ているのかもしれないと思ったりして。
第二部は、鳳凰東の間に移動して、日販グループ方針発表。これマル秘です。
第三部は、パッと懇親会なのですが、明日の仕事の関係で車で来たかったので、今回は欠席。
いっぱい勉強して、巨大書店ばかりの中で、「絶滅危惧種・個人新刊書店屋」ではありますが、よし!がんばるぞと気持ちを新たにしました。

いつの間にか久しぶりの金沢になってしまっていて、どうしても寄って来たいと思って、オヨヨ書林新竪町店とオヨヨ書林せせらぎ通り店に、汗だくになって行ってきました。オヨヨ書林竪町店は行ったことがあるのですが、オヨヨ書林新竪町店は今回が初めてです。オヨヨ書林せせらぎ通り店も初めてで、ここは北陸新幹線開通のコマーシャルで、蒼井優さんが自転車でやって来た有名店です。富山で朝配達の仕事などしてから金沢に出かけたので、スケジュールがタイトになってしまい、落ち着いて訪ねてくることができませんでした。とても残念、また行きます。
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金沢へ行ったので、やっぱりお酒買いました。「池月純米酒4合瓶」(1,458円)、「ほまれ純米吟醸酒4合瓶」(1,260円)です。「ほまれ」は「遊穂」の蔵元の純吟です。「遊穂」は富山でも買えるのですが、これは見ません。金沢のお酒は、すごいです。「菊姫」や「天狗舞」はものすごく有名ですが、新潟や富山のような淡麗辛口ではありません。「水の如し」ではもちろんありません。たしか「天狗舞」の中杜氏が、能登四天王ですが、「富山のような綺麗な酒は造らない」と言っておられたと思うのですが、あほな性悪が綺麗じゃなければ汚いお酒ですかと突っ込みそうですが、芳醇な美味い酒という意味だと思います。ほんとに濃い味で、純米酒は古酒のような風味です。富山大和のお酒の販売担当者の方が、「富山の方に、金沢の酒をお勧めすると、後でこの酒、腐っとるといって返品に来られるのに困る」と話しておられたことがありました。私自身、新潟で淡麗辛口、水のようなお酒を呑んで、美味いと思ったのが日本酒にのめり込む始まりで、今でも水のような日本酒が呑みたいわけで、初めて「菊姫」を買ったとき、その味わいの複雑さに驚いて、これは私のような素人が呑むものではなくて、玄人が味わうお酒なんだと思いました。加賀百万石の長い太平楽の中で、匠の技が加わってないものは面白くないと思う気持ちが、金沢の人たちにはあるのではないかなぁと感じます。私の命の恩人ともいえるHさんから、毎年年暮れに「天狗舞山廃純米大吟醸」をいただくのですが、私の購入限度額をはるかに超えるお酒なので、毎年ありがたくいただいているのですが、これくらいグレードの高いお酒ともなると、洗練された匠の技の奥深い味わいというのでしょうか、言葉で表すことができないものがあります。
4月に仕事で新潟へ行くことがあって、帰りのえちごトキめき鉄道「特急しらゆき」から北陸新幹線に乗り換えるのに、上越妙高駅で「水のような淡麗辛口な酒は決して造らない」で評判の「かたふね純米吟醸酒4合瓶」を見付けて買いました。一度呑んでみたいと前々から思っていて、さぞかし金沢の酒のようにくっどい味なのだろうと期待して飲んだところ、私にすれば全く新潟グループで、とてもおいしい酒で、これから機会があれば積極的に購入したい、「久保田紅寿」や「鶴齢純米吟醸」や「緑」や「龍躍・竹林爽風」と同じ淡麗辛口、つまり「水」としか思えませんでした。近くの「吟田川」などよっぽど「水」じゃない。「水」じゃないのは、何といっても金沢のお酒です。

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ニイガタブックライト 一箱古本市in現代市に行ってきました

去年に続いてニイガタブックライト ‐一箱古本市in現代市に2回目の出店をしました。週間天気予報では開催当日(6月12日)は、雨天。前日まで気をもみましたが、何のことはない当日は快晴、夏日。うだるような暑さ、去年に続いての猛暑です。こんな暑い中でも、引きも切らないお客様。やっぱり、新潟の一箱古本市は、すごい!これだから、今春新潟大学を卒業して、とっくに娘はいなくなっている新潟へ、お隣に出店しおられる、鎌倉からお越しの「サルトリイバラ」さんからも、「隣県といっても、そんなに簡単に来れるんですか?」と言われちゃうのですが、やっぱり来てしまうのです。
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 今年の一箱古本市のゲストに、もちろん南陀楼綾繁さんはおいでなのですが、京都の山下さんが、「出張ホホホ座」で出店しておられました。前日は、北書店で山下さんと佐藤(北書店店主)さんの記念トークがあって、ニイガタブックライトのメインスタッフであるKさんの解説では、「絶滅危惧種・個人新刊書店屋さん東西両雄の対決」とのこと、とても盛り上がったようです。私は、「絶滅種のはずがまだ生息していた・個人新刊書店屋」なので、店を休業して、「そんなに簡単に来れる」わけではないので、残念ながらお聞きすることができませんでした。そのほか、蔵前の『HAB』の版元 「H.A.Bookstore」さんも出店しておられて、少々商談などしてしまって。
今年の一箱古本市の出店は、全部で50箱余。去年から比べると10箱ほど少ない感じ。ニイガタブックライト ‐一箱古本市の開始当初は、80箱を超えていたとのことなので、大したものです。去年お隣だった、「古書 雑踏」さん、今年は欠席で、残念。今年もお隣になれないかなぁと、お会いするのを楽しみにしていたのですが。あと、上古町の「むすびや百(もも)」さんが出店されるので、お昼は「おにぎり?!」と楽しみにしていたのに、11時頃買いに行くと、ショック!すでに売り切れ、これも大変に残念でした。
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私が、「そんなに簡単に来れる」距離の街ではないのに、一箱古本市にかこつけて、どうしても新潟の街にやって来たいわけがあるのです。4年前三女が新潟大学に入学して、初めて新潟の街をみて、本屋さんをみて、酒屋さんをみて、いろんな人たちの生活を見て、人と人が接する様子を見ていると、うまく表現できないのですが、富山や金沢では何をするにも、本屋の仕事や催し物をするときも、何事にも上下関係をはっきりさせたいっぽい垂直志向があるのですが、新潟の人たちのそうではない、水平志向とでも言える普通の、ある意味本来当たり前の接し方にとても感じるものがあったのです。ずっーと書店経営に行き詰まっていた私が、この水平志向で自分もやっていけないだろうかと考え始めてから、本屋としてのモチベーションをどんどん取り戻してきたと思っています。私が「児童書専門店」から「本屋」に替わることを決めた街なのです。
あっそれと、新潟へ行ったのですから、もちろんお酒買いました。「清泉七代目4合瓶」(1,543円)、「越乃かぎろい千寿4合瓶」(1,437円)、「越の鶴純米酒300ml」(525円)、「越乃白雁純米吟醸300ml」(600円)です。

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JM社 新刊本安売り 再販違反? ダンピング?

本屋の仕事、田んぼや畑の耕作、超高齢を迎えた両親との生活と毎日が忙しく、ブログのことを考えるゆとりもなく過ごしていたところ、大学の先輩Tさんが経営する、子どもの本の古本屋DさんのFacebookを見てビックリ!久しぶりの再開になりました。
そこには、「在庫のある本もお取り寄せして、特別価格で提供します。税込み価格の15~22%OFF!お買い得です!(^^)!  郵送の場合、送料不要です。ジャパンマシニスト社が負担してくれるそうです」と公開されているのです。
一般の人は、おっ!安売りイイじゃん!と当然思われるでしょうし、本屋ということでは素人であるTさんにしても、ジャパンマシニスト社さんが、7掛(後にTさんの話では、実際は6掛だったようです)で出すから後は好きな値段で売ってくださいということだったので、とご本人としては、本をできる限り安く販売して、世のため、人のためと思って疑わない。
でも、ちょっと待ってください。新刊本を、22%引きで販売するなんて、日本中の本屋さんが聞いたら、髪の毛が逆立って、先日射水市に講演に来られた落合恵子さんの怒髪のようなことになっちゃう話なのです。

事の次第はこうです。まず、ジャパンマシニスト社が発行している『ち・お』『お・は』を「読む会」というグループがありました。その方々が、『ち・お』『お・は』の展示会を、Dさんの2階ギャラリーで開催することにしたのです。そこで、会場の賃借料や資料作成の費用の捻出と本の普及のため、販売もしたいということで、ジャパンマシニスト社に相談したところ、先のように好きな値段で販売してくださいと言われ、送料も返品送料も同社負担でよいと言われたそうです。グループの方々は、一冊でも多く、たくさんの人に読んでもらいたいと、目一杯安く値段をつけて、お買い得ですよということで、多くのお客さんにお越し願おうと考えたわけです。会場を貸しているDさんも、そういうことであればと、自らのFacebookで大大的に、新刊本の安売りを告知したという次第です。
この熱意には、とても心動かされるものがあります。うちの店でも、20年以上ずっと『ち・お』『お・は』を定期購読してくださっているお客様が何人もおいでです。カミさんが、『ちいさいおおきい よわいつよい』の創刊号を、それこそまだ怒髪ではなかった頃の落合恵子さんちの「クレヨンハウス」で見付け、あっ、こんな雑誌が創刊されたんだと思い、うちの店にも置いて、販売してきました。一人でも多くの人に、一冊でも多く、手に取ってもらいたいと思い、ちょっとでも安くすればよいのではないかと思われた、グループの方々やTさんの気持ちはよくわかります。
しかし、本屋の立場からいうと、どうもおかしいのです。このことには、2つの問題があります。

一つは、再販売価格維持制度の問題です。定価を決めて、日本中の書店に定価販売をさせている本体が、自ら進んで定価を破壊していることです。コンプライアンスの問題であり、脱法の疑いがあると思います。
新刊本は、定価販売されます。日本中の本屋さんは、定価が表示されている本はみな同じ定価で販売しています。この定価は、しかし本屋が決めているわけではありません。本の定価を決めているのは、版元である出版社です。出版社が決めた定価で、日本中の本屋さんが売らされているといえるのです。一旦、本屋が値引きでもしようものなら、たちまちすべての入荷が止まります。かつて消費税導入の折、ある児童書専門店が消費税に反対して徴収しなかったために、値引き販売とみなされて、出荷を止められ、閉店に追い込まれました。それほどまでに厳重に守ることを本屋に要求している定価販売の、その定価を決めている出版社である、今回の場合は「ジャパンマシニスト社」が、本屋以外の素人の方に、「好きな値段で販売してください」と値引き販売を推奨するというのは、どうなのでしょうか?

再販売価格維持制度については、もちろんこの点以上に価格や流通の安定、著作権の保護、などなど考えなければならない重要なことがらがたくさんあるようです。出版物は他にとってかわることのできない内容であり、つまり例えば三菱鉛筆よりトンボ鉛筆の掛けが安ければそちらを売るというようなことがないこと。制度がなくなれば、出版リスクが高くなるので、本の種類が少なくなり、本の内容が偏り、売行き予測の立てやすいベストセラーものばかりになり、値引き競争になるので見せかけの価格が高くなり、富山のような地方では東京など都市圏より本の価格が高くなり、うちのような街の弱小書店は価格競争ができず、見せかけの高値のまま本を売らされ、次々と潰れていくというような事態になることが予想されます。また、価格が自由になるということは、著者の印税も今のように定価の一割を保証する必要はなくなり、新人作家や新しい文化活動が生まれにくくなると思います。
Tさんにこのようなことを話したら、じゃあ「ジャパンマシニスト社」は真っ黒黒の再販違反の確信犯じゃない、といってくれるのですが、やっぱり安売りは、読者のためと頑固にお思いのようで、22%引きはお止めにはなりません。

二つ目の問題は、不当廉売、ダンピングです。本屋は、ご存知のように、正味(掛け率)が厳しく、小売業中利幅の少なさチャンピオンです。特に、「ジャパンマシニスト社」は、他のほとんどの出版社さんから比べても高掛け率です。広告も載せず、真摯なテーマに取り組んでおられるのだから仕方ないだろうと、この恐怖の岩波書店並み掛け率に甘んじて、20数年仕入れてきたのです。しかし、22%も値引きして販売されると、日本出版販売(うちの取次(問屋)さん)さんからの仕入れ値よりも低いのです。うちがDさんから買ってきてそれを販売すれば、日販経由より多くの利益が出るのです。あるいは、Dさんから買ってきて、それを返品すればそれだけで利ザヤが稼げることになります。これは、明らかに不当廉売、ダンピングです。「ジャパンマシニスト社」は、日本中の本屋に通常いくらで卸しているか把握しておられるはずですが、本屋以外の何も知らない素人の方に「好きな値段で販売してください」と言ってダンピング行為、法律に違反する行為をさせていることになるのではないでしょうか。
同じ仕入れ条件の商店同士であれば、ダンピングした方が、利益を失い、法的、社会的制裁を受けるリスクも背負い、良いことは何もないのが普通です。逆にダンピング商品を競合商店にダンピング価格で買い占められて、セール価格で攻撃されるということさえあります。しかし、本屋は定価販売なので、今回のように書籍の正規ルートから隠れて、闇ルートでダンピングをされると、正規の書店は打つ手がありません。毎日真面目に、正規の運営をしている書店から、いつの間にか、20年以上の定期購読者や30数年来の顧客が奪われて、理不尽にも閉店に追い込まれていくことにもなるのです。

そこで、以上の点について、「ジャパンマシニスト社」に問い合わせてみることにしました。回答を大まかに言うと、今回のような催し物の時は、「好きな値段で販売してください」ということに決めてあるとのことで、黙って目をつぶってくれと言うのです。そんなこと、うちの店に、20年以上取りに来て定価で買っていかれて、これからも買いに来てくださるお客様に向かって、「ジャパンマシニスト社」が、他では22%引きで安売りしているけど、今まで定価で買ってもらったことは「黙って目をつぶって」、今月の『ち・お』も、そしてこれからの定期分も「黙って目をつぶって」定価で買っていってください、と言えるものなら言ってみろ!と言いたいです。
これは、安売販売をするという「値引き想定の定価」も「ジャパンマシニスト社」が決めているということですよね。本屋に再販売価格維持制度で売らせる「定価」も「ジャパンマシニスト社社」が決めれば、本屋以外の方に不当廉売してもらう「ダンピング定価」も「ジャパンマシニスト社」が決めるということではないでしょうか。
やっぱり、これ、再販違反、コンプライアンス違反ですよ。ブラックですよ。やっぱり、もう一度ジャパンマシニスト社」に聞いてみます。

このように、だんだん興奮してきてしまう私に対して、日本一の本の問屋さん日本出版販売さんは落ち着いておられました。日販のうちの担当者に相談したら、最初はやっぱりびっくりした様子でしたが、本社の担当部所に問い合わせてもらうと「ジャパンマシニスト社にヒヤリングはしますが、そういう出版社さんは結局社会的に不審を持たれるだけだと思いますよ。みんなでちゃんと定価を守って販売しましょうってことですよ。ヒヤリングの結果は必ず報告します」という回答でした。
より豊かで、楽しい本のある生活のために、「みんなでちゃんと定価を守って販売しましょう」 だから、新刊本の値引き販売は、やっぱりやめてもらえないかなぁ。

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